去勢・避妊手術の重要性
まず、犬猫の去勢・避妊手術にはどんな意味があるのでしょうか? 望まない妊娠を避けること以外にも、手術によって受けられる恩恵は少なくありません。
また、冒頭でも触れましたが、保護活動者から犬猫を迎える場合は、「去勢・避妊手術を受けさせること」が譲渡条件のひとつになっている場合が多いです。よほどの事情がない限りは必須条件と見なされるため、里親になるためには手術に同意し、速やかに病院を手配しなければなりません。
去勢・避妊手術のメリット
去勢・避妊手術によってもたらされるメリットにはどのようなものがあるでしょうか。代表的なものは以下の3つです。
望まない妊娠を避けられる
「これ以上不幸な命を増やさないこと」は、保護犬・保護猫を飼ううえで必ず考えなければいけない重要事項です。保護団体が手術を推奨する理由にも大きく関わっています。
また、むやみな妊娠は母体にも大きな負担をかけてしまうため、望まない妊娠は避けなければいけないと言えるでしょう。
病気の予防
避妊手術は、性別特有の病気の予防にもつながります。メス特有の子宮や乳腺の病気は、避妊手術で罹患リスクが大幅に下がると言われています。またヒート(生理)によるトラブルもなくなるので、飼育上の負担を減らすこともできるでしょう。
去勢・避妊手術でリスクが下がる病気
病 名 | 性 別 | 内 容 |
---|---|---|
乳腺腫瘍 | メス | 乳腺に腫瘍ができる病気です。 発情を3回迎えるまでの間に手術をすると、 ほとんどの確率で発症が抑えられるとされています。 | 子宮蓄膿症 | メス | 避妊手術を行わない成犬によく見られる病気です。 発見が遅れた場合、命にかかわる怖い病気ですが、 避妊手術で完全に予防できると言われています。 | 精巣腫瘍 | オス | 精巣に腫瘍が出来る病気です。 去勢手術で精巣を取り除くことで、発症を予防できます。 |
前立腺肥大 | オス | 去勢手術を行わない高齢のオスによく見られる病気です。 男性ホルモンが影響することで前立腺が肥大し、 排尿や排便に支障をきたします。 |
問題行動の軽減
発情期を迎えるとマーキングや欲求鳴きといった問題行動が見られるようになりますが、手術を受けると、それらの問題行動がおさまるケースが多いです。また、発情期のメスに反応してオスが脱走したり、交尾できないストレスを抱えたりすることもなくなります。
ここまでは去勢・避妊手術によってもたらされるメリットをお伝えしましたが、デメリットもあります。ペットが太りやすくなる、手術時の麻酔のアレルギーのリスクがある、といったことですが、トータルで考えると、手術することによるメリットの方が多いと言えるでしょう。
去勢・避妊手術を受けるタイミング
去勢・避妊手術を受けるタイミングは、「はじめての発情期」を迎える前、月齢で言うと生後6カ月ごろが適切だと言われています。
犬の場合は生後約7~12カ月で、猫の場合は6~12カ月で身体が成熟し、繁殖のための準備が完了します。いつ発情期を迎えるのかは個体差があり、一般的には身体が大きい犬種・描種ほど成長は遅めであると言われています。
犬猫の生育状況や体調に問題がなければ、最初の発情期を迎える前に手術を受けるのが望ましいです。
生育状況や健康状態には個体差がありますので、手術の時期については早めに獣医師に相談することをおすすめします。
去勢・避妊手術の費用
犬猫の手術は自由診療になるため、料金は病院によりさまざまです。
相場は犬の場合、小型犬だとオスが3万円前後、メスで4万円前後です。大型犬はそれよりも高額で、オスが4万円前後、メスが6万円前後を見ておく必要があるでしょう。
猫の場合は、オスが2万円前後、メスが3万円前後であることが多いです。
オスよりもメスの相場の方が高くなっているのは、手術の難易度や入院の有無が関係しています。オスの場合は半日程度で手術が終わり、経過が順調であれば入院の必要もありません。メスの場合は、術後1~2日程度の入院となるため、その分料金が高くなります。
自治体によっては、去勢・避妊手術の助成を行っているケースもあります。自分が暮らす自治体に制度があるかどうか、事前に調べておきましょう。
東京都の場合、飼い主のいない地域猫に対し、手術の助成金が用意されています。新宿区や渋谷区、世田谷区などの一部の区では、飼い猫に対しても助成が行われています。※
去勢・避妊手術後の注意点
去勢・避妊手術は、少なからずペットの身体に負担をかけるものです。退院してから完全に回復するまでは、以下のようなポイントに注意しましょう。
とにかく傷口を舐めさせない
手術後の傷が気になって、傷口周辺を舐めてしまうのはよくあるケースです。患部を舐め壊してしまったり、感染症を引き起こしたりする恐れがあるため、とにかく舐めさせない対策をすることが大切です。
手術後には、『エリザベスカラー』と呼ばれる大きな襟巻きのような器具を使うのが一般的です。舐めようとしても舌が患部まで届かなくなるので、傷口の保護に最適です。
ほかにも、洋服で患部を覆う方法もあります。専用のグッズは動物病院で貸してもらえる場合もありますので、獣医師に確認してみるといいでしょう。
術後しばらくは安静にする
去勢・避妊手術は全身麻酔で行われます。生後1年に満たない犬や猫の体にとっては大きな負担です。退院後しばらくは元気がなくぐったりしているように見えることもありますが、そんなときはベッドやケージの中で安静にさせましょう。
また、手術後に食欲が減退してしまうことがあります。食べ物を何も食べなくなるのは心配ですが、手術後1~2日は無理に食べさせずに見守りましょう。食欲が少しずつ戻ってきたら、フードを小分けにして徐々に与えるようにしてください。
肥満に注意する
手術のデメリットとしてよく指摘されているのが『肥満』です。これは繁殖に使われるはずだったエネルギーが消費されなくなることで代謝が落ち、栄養が脂肪として溜めこまれやすくなるためだと言われています。
手術を行う生後6カ月ごろはまだまだ成長期に当たりますが、手術後はフードの量や内容を見直し、肥満を防ぎましょう。また、適切な運動量を確保することも大切です。
まとめ
去勢・避妊手術の重要性や基礎知識について解説しましたがいかがでしたでしょうか?
残念なことに、今でも「かわいい子犬や子猫を見てみたい」「手術代がもったいない」という安易な理由で、繁殖をさせてしまうケースが後を絶ちません。素人が行う繁殖のリスクや、生まれたあとの子犬・子猫のお世話がきちんとできるのか、責任を持って飼えるのか(もしくは譲り先を探せるのか)ということを、よく考える必要があります。
動物を飼う者の責任として、まずは”今ある命”を大切に守ることを考えてくださいね。