成犬でもしつけはできる
成犬はこれまでの生活の中で身に付けてきた行動や習性があり、それらを変えてもらうには飼い主側の心のゆとりと根気が必要だといえます。
その点、子犬は柔軟性に優れており、子犬からしつけたほうがいろいろな物事やルールを飲み込みやすいというのも事実です。
しかし、成犬になっても新しいことを学ぶことは可能です。
むしろトレーニングに対する反応性は子犬より高く、倫理的思考が優れているともいわれています。
しつけをはじめる前に
しつけをするならまず、犬と信頼関係を築くことが大切です。
特に保護犬の場合は心を閉ざしていたり、人とどのようにかかわったらよいのか分からなかったりする子が多くいます。
これまで大切にされてきた犬でも、突然の環境変化についていけず、混乱や不安を抱えることも少なくありません。
では、どのように信頼関係を築いていったらいいのでしょうか?
具体的には、犬が安心して過ごせる場所を提供してあげるということです。しつけよりも、優先しておこないましょう。
犬も安全な場所と愛情を与えてもらっているのだと理解できれば、新しい飼い主さんとの生活を受け入れ、少しずつ頼り、求めてくれるようになるでしょう。こちら側のルールを教えるのはそれからです。
成犬に覚えさせたい基本のしつけ
覚えさせると、今後困らないしつけを紹介します。
犬の「褒めてもらった」「できた」という楽しい気持ちを上手に育てながら進めていきましょう。
呼び戻し
目的
いつでもどこにいても戻ってくるようにします。
リードがすっぽ抜けるなどの思わぬハプニングや震災のときでも、犬の安全を守れるようにします。
しつけ方法
- かけ声を決める
オイデ、カムなどのかけ声の中からひとつに決め、家の中でのトレーニングから始めます。 - ご褒美をあげる
食べ物がご褒美になる子にはフードやおやつを、遊ぶのが好きな子にはおもちゃを。撫でるだけでもOKです。呼ばれていったら「嬉しいことがある」と覚えてもらいましょう。 - 短い時間で切り上げる
うまくできなければ、別のタイミングで再チャレンジです。
うまくできていても集中できているうちに切りあげ、楽しい状態で終われるようにしましょう。
無駄吠え
目的
吠えには必ず理由があるため、「無駄吠え」といわれるのは、犬としては不本意かもしれません。
まずは吠えの原因を探り、愛犬が吠えずに済む状況をつくりましょう。
たとえば玄関チャイムのボリュームを下げる、外からの音が聞こえないよう窓を閉める、散歩の時間帯を変える、散歩コースを迂回する、などです。
そのうえでどうしても回避できないことがあり、ご近所の目が気になるなどお互いストレスになる吠えがあれば、直していきましょう。
しつけ方法
- 名前に反応したらご褒美
名前を呼んだときにこっちに来る、目が合うなど反応があれば、ご褒美をあげます。 - 吠えていないときにご褒美
愛犬が吠える対象物を見つける前に、名前を呼び、飼い主さんに注目してもらえるようにします。
吠え出してしまっても、呼ばれたことに気付き、吠えるのをやめ、アイコンタクトできればOKです。
吠えていない瞬間を褒めるポイントにしましょう。
トイレ
目的
飼い主さんへの負担が大きいトイレの粗相は、できるだけ早く習得してもらいたいしつけのひとつです。
合格ラインを低くし、褒める回数を増やすことを意識しましょう。
家派? それとも外派?
絶対に家の中でトイレをしたがらない「外派」の子は、成犬・子犬問わず、一定数います。
生活環境や愛犬の性格を考慮し、家の中にトイレをつくるか、そのまま外での排泄を続けるのか、決めましょう。
以下は家の中でしつける方法です。
しつけ方法
- トイレをつくる
トイレの位置は、寝床からできるだけ離します。また、寝床とごはんの場所からアクセスのよい場所に設置します。 - トイレシート、トイレトレー
まずはトイレシートの上に乗れるようにしましょう。
乗れたら褒める、シートについた尿のにおいを嗅いだら褒める、「トイレ」「チッチ」などのかけ声を聞いてトイレ場所まで行けるようになったら褒めます。 - 誘導
朝起きてすぐや、ごはんのあとなど愛犬のトイレタイミングをみて、トイレまで誘導します。
できたら褒め、少し待ってもしなければ、その場を離れます。次のタイミングを待ちましょう。
散歩の引っ張り癖
目的
飛び出しや転倒などの散歩中の事故やケガ防止のため、飼い主さんの横をつかず離れず、上手に歩けるようにします。
ここではリードが少し緩んだ状態で歩き、リードが張るほど先に行ってしまったときは止まる「リーダーウォーク」を紹介します。
しつけ方法
- リードに慣れる
まずは家の中で散歩の練習をしましょう。
ハーネスやリードなど装着物の音や重さに慣れてもらいます。 - 飼い主さんのペースで
犬が走ってもつられて走らず、飼い主さんのペースで歩きます。
リードがピンと張ったら止まり、犬がそれに気づいて戻るまで待ちます。
リードが張ると制御がかかり、動かしづらくなるという、犬の体の作用を使ったしつけです。
噛み癖
目的
度合いや原因にもよりますが、噛み癖は事故防止のためにも早く解決してあげたい問題です。
しつけ方法
- しつけを始める前に原因究明
愛犬が噛む原因、噛んでしまう対象を把握しましょう。 - 代わりのものを与える
遊びの延長や八つ当たり、暇つぶしなどで物に噛みついている場合は、噛みついてもOKな代わりのものを与えます。
恐怖や威嚇から人の手に噛みつく場合は、人の手に慣れてもらうトレーニングをします。
はじめは手で犬を触らないようにし、手を動かすときはゆっくりとおこないます。
時間をかけて「手は怖いものではない」と知ってもらいましょう。
成犬からのしつけの注意点
覚えてもらうと今後困らないしつけを紹介しましたが、今すぐでなくてもとくに困らないものは急がず、できれば生活に支障が出るものから取り組みましょう。
また、しつけをおこなう際は、下記の点を注意してください。
体罰は絶対NG
ここでいう体罰は「頭を軽く叩く」ことも含まれます。「軽く」は叩く側の判断でしかないからです。
体罰は問題を解決しないどころか、さらに悪化させます。犬の心と体にも悪影響しか与えません。
声かけを統一する
しつけに使うキュー(合図)言葉は「マテ」「ステイ」や「ダメ」「ノー」など、言い方がいくつかあるものがあります。
その場合は必ず使う言葉はひとつに決め、家族で統一しましょう。
ときにはプロの手をかりる
何らかの事情で保護犬となった子たちは、新しい家族に迎えられるまでの間に、保護団体などボランティアが入るケースがあります。
その場合、保護犬達は預かりさんのお宅で、家庭犬として暮らせるよう心と体をケアしてもらいます。
問題行動を抱えている場合のほとんどは、預かりさん宅で判明・改善対策がおこなわれ、新しい飼い主さんへも情報が共有されます。
家族に迎えてから困ったことがあれば、預かりさんを頼ってみるのもよいでしょう。
一方、個人や保健所から直接譲り受けたという方は、預かりさん宅で過ごす期間がありませんので、ひょっとしたら苦労が多いかもしれません。
困ったことがあれば、自分だけで解決しようとせず、プロのトレーナーや経験者にアドバイスをもらいましょう。
まとめ
犬は伴侶動物として進化してきた動物です。本能的に家族の一員になりたいと考え、がんばる姿を見せてくれることでしょう。成犬であっても、新しいことを次々に吸収してくれるに違いありません。
しかし、もし家族に迎えた子に深刻な噛みや吠えの問題があると分かったときには、飼い主さんひとりで抱え込まず、誰かに相談してください。
その問題行動が原因で保護犬になったのかもしれない可能性を考えてみていただければと思います。