地域猫とは? 野良猫との違いは?

野良猫の集まり

保護活動をしていない人でも、猫好きなら「地域猫」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
地域猫とは、特定の飼い主はいないものの、ボランティアなどにお世話をされながら、屋外で暮らしている猫のことをいいます。

飼い主がいない、屋外で生活するという点では野良猫と同じですが、地域猫には去勢・避妊手術がおこなわれます。

さらに、地域住民の合意のもとで、ごはんを与える場所やトイレを決まった場所に設置し、地域にできるだけ迷惑をかけずに猫を適切に管理していくことを目標としています。

さくら猫と呼ばれることも

カットされた猫の耳

去勢手術や避妊手術を実施した猫には、目印として耳にV字型の切り込みを入れます。その形がさくらの花びらに似ていることから「さくら猫」とも呼ばれるようになりました。

一般的には、オスは右耳、メスは左耳をカットされているようです。

耳をカットするなんて可哀想?

全身麻酔下でおこなわれる去勢手術・不妊手術は、猫の体に負担をかけます。
メスは術後の傷がきれいに治ってしまうと、外見からは手術をしたかどうかわからなくなってしまいます。

オスは睾丸が次第に委縮するので、時間が経つとお尻回りをちょっと見るだけでは性別がわからなくなります。

そのため、同じ猫が再び捕獲・手術されてしまわないよう、手術で麻酔が効いていて痛みのない間に、耳先をカットするのです。

猫の耳先はとても薄く、血流も少ないため、縫合しなくても止血後は次第に傷口が治っていきます。

TNR活動とは?

捕獲された野良猫

TNR活動のTNRとは、「Trap(捕獲)」「Neuter(去勢・避妊手術)」「Return(返す)」の頭文字で、猫を捕獲(Trap)し、去勢・避妊手術(Neuter)をおこない、元いた場所に返す(Return)一連の活動を示します。

TNR活動の意味

猫の繁殖力は強く、メスは避妊手術を受けないまま屋外で自由行動をしていると、繁殖期にはほぼ確実に妊娠・出産します。

多くの猫は1度の妊娠で5頭程度出産をするので、1頭だけで年に10頭以上を産みます。産まれた子猫は1歳前でも繁殖可能なまでに成熟するため、たった2年で100頭近くの新しい猫が産まれる計算になります。

こうして飼い主のいない猫が爆発的に増えると、それに伴って車に轢かれる「ロードキル」や、飢えや渇き、病気に苦しむ猫や、糞尿被害なども増えてしまいます。

飼い主のいない猫の繁殖を制限するTNR活動は、不幸な命を増やさないために大変効果的な活動なのです。

TNR活動にかかる費用

一般にオス猫の去勢手術は10,000~15,000円程度メス猫の避妊手術は開腹を伴うため20,000~35,000円ほどの費用がかかります。

去勢・避妊手術以外にも医療を必要とすることもありますが、多くの場合、これらの費用はTNR活動をおこなっているボランティアさんが負担しているのが実情です。

不妊・去勢手術にとどまらず、地域猫としてお世話をされている猫については、ケガや病気、ワクチンなどの通院費用や、ごはん代もボランティアさんが負担しています。

最近はTNR活動への理解が進み、格安で手術を請け負ってくれる動物病院が増えたり、自治体が補助金を出してくれたりするケースや、譲渡時の寄付や医療費清算に快く応じてくれる里親も増えてきています。

地域猫のメリット

たたずむさくら猫

野良猫が増えなくなる

屋外で自由行動する猫に対して、去勢・避妊手術により繁殖制限をおこなうため、その地域に今いる以上の猫は増えなくなります。

地域の外から入ってくる放浪猫に対しても、ボランティアたちは「最近、見かけない猫がいる」と確認すると、様子を見ながら捕獲、去勢・避妊手術を計画します。

そんなとき、対象の猫が「さくら猫」であるとわかった場合、手術をしないで済みます。

糞尿被害が少なくなる

家庭の花壇や畑、公園の砂場などを外猫がトイレとして使う「糞尿被害」があります。

猫は気に入った排泄場所を繰り返し使う傾向があり、その性質を利用して、地域猫用のトイレを用意します。

糞をこまめに捨てて、清潔にしっかりと管理をすれば、糞尿被害も少なくなります。

トイレの置き場所はボランティアが適当に決めているのではなく、置き場所の持ち主や管理者と交渉をして、責任をもってトイレを置かせてもらっています。

ゴミ置き場などが荒らされにくくなる

ごはんの場所や与える時間を決めて世話をすれば、猫たちがおなかを空かせてゴミ置き場などを荒らす必要がなくなります。

地域猫へのえさやりは、外猫にこっそりとごはんを与える行為と異なり、特定の場所に清潔にごはんを置いて管理します。

そのため、放置されたごはんが腐敗して食べた猫がお腹をこわしたり、散らかったフードでえさ場や周辺が汚されたりすることもなくなります。

また、地域猫とお世話をするボランティアに信頼関係ができてくると、ごはんの時間になれば猫たちが現れるようになるので、ねずみやカラスなどにえさ場を荒らされることも少なくなります。

発情期によるケンカや鳴き声による被害がなくなる

猫は発情期になると、昼夜構わず独特の大きな声で異性を呼び、存在をアピールするようになります。

地域の外猫がすべて去勢・避妊手術済になると、メスのにおいや鳴き声に釣られて地域外から侵入してくるオス猫が減ります。

また、去勢済みのオスについては、排尿でにおいをつけるスプレー行為が圧倒的に減り、交配欲も大きく低下するため、発情期のメス猫をめぐるオス同士の激しいケンカもなくなります。

一方で地域猫には反対意見も……

反対する人

地域猫のためにえさ場やトイレを用意し、しっかり管理していても、糞尿被害やゴミ置き場を荒らされる被害を完全になくすことは難しいものです。

そもそも猫が嫌いな人にとっては、外猫の存在自体が許せないという考え方の人もいます。
そんな人たちに対しては、「地域猫活動は、野良猫の繁殖を抑えて自然減に導くための活動」であることを理解してもらえるよう、粘り強く説明していく必要があります。

地域住民の理解と協力を得て地域猫活動を確実におこなうためには、猫を助けたい人と猫が嫌いな人それぞれが納得できるようなルールづくりをして行くことが大切です。

まとめ

耳をカットされた猫

地域猫、さくら猫、TNR活動、それぞれについて、その意味と目的などについてお話してきました。
地域猫活動は猫を助けたいボランティアが中心となり、地域住民の理解と協力を求めながら、えさ場やトイレの管理、去勢・避妊手術の実施、ケガや病気の際は捕獲して通院させるなどのお世話をしています。
風雨にさらされ、一生に何度も出産し、飢えや渇きに苦しむ外猫がかわいそうだからとごはんをあげるだけでは、不幸な猫が増えるばかりです。
つらい思いをする猫たちを減らすための地域猫活動、温かく見守っていきたいですね。